熱血ライター 神山典士がゆく

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July 29, 2016

「フレンチの王道・シェイノの流儀」読書感想文大会~優勝者発表!!!

「フレンチノ王道、シェイノの流儀」(文春新書)の出版記念食事会
読書感想文大会の栄えある優勝者は--------

放送作家の宮田浩史さんに決定しました~~~

おめでとうございます~~~
宮田さんには、シェイノから、時価5万円相当(?)の「お食事券二名様分」が贈られます~。

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刻まれた記憶 〜フレンチシェフ井上旭の流儀〜  
                          宮田 浩史

 「人間てのはさ、結局、自分の身体に刻み込んだ記憶だけが財産なんだよ……悔しくて殴ってやりたいと思った記憶。そこだけ後光が射しているように美しくて魂が震えた記憶……そんな記憶だけが逆境に立たされた時の突破口になるし、俺はそうやってこれまでの人生を生きてきたね……」
 『フレンチの王道 シェ・イノの流儀』を読み終えた時、まだ一度もお会いしたことのない井上さんの声が聞こえた気がした。ニセモノやまがいものを死ぬほど嫌い、言葉は飾り気のないべらんめえ調という氏の豪快な声が。
 流行り廃りの激しい飲食業界において、30年にわたりトップを疾走するグランメゾン『シェ・イノ』を一代で作り上げたオーナーシェフ・井上旭さん。彼は26歳のときにその目で見、身体に刻み込んだソースの記憶だけを頼りに、それを料理人としての唯一最大の武器にしながら、その数奇な人生を切り拓いてきた。井上シェフの輝かしい成功の陰にあったのは、いつもたった一つのソースだったのだ。
 
 悔しさの記憶
 「フレンチの王道」第1章には、父親の病気によって15歳で働かざるを得なくなった井上青年が、その境遇から何とかして這い上がろうと、もがき苦しむエピソードが出てくる。10代後半で初めて料理の世界に飛び込んだ井上さんは、その時すでに「俺ならもっとこうする」というアイデアを持っていた。しかし駆け出しの新人、井上旭が親方に見せた料理は、味見すらされず投げ捨てられる。井上さんは思わず親方の胸ぐらをつかみ、殴り掛かろうとした。この時の“悔しさの記憶”が「日本の料理界をひっくり返し」、「フランス料理で世界のてっぺんをとる」ことを決意する原点となった。
 その後も、修業先のレストランで先輩から受けた差別の記憶や、出口の見えない料理修行の日々の中で、膝を抱えながら過ごした記憶が、井上さんを前に進ませた。そして井上さんは、生涯の宝となる記憶をその全身に刻む瞬間を体験する。
 三ツ星レストラン『トロワグロ』で、師匠ジャンが天才的な動きで作り上げていく至高のソース。28歳の井上さんは、その一部始終をノートではなく、脳と五感、すなわち己の肉体のすべてに刻み付けた。全身全霊で意識を集中させて。そしてこの時の記憶が、その後40年以上にわたる井上さんの料理人人生を支える「核」となったのである。

 型を受け継ぎ、型を破る
 「フレンチの王道」第3章には、フランスでの修行を終え、帰国した井上さんの恐るべきエピソードが登場する。「調理場で一通りのソースをつくり頭を整理してから」、なんと「修行中に書きためていたジャンのソース作りのルセットやメモを全て破り捨てた」というのだ。料理人にとってレシピは一生の財産。いくら脳裏に刻み込んだといっても、捨てなくてもいいのでは。そう考えるのは私たち凡人だ。ルセットに頼って再現芸のソースを作っていたら、いつまで経っても新しい創造は生まれてこない。師匠を超えるソースを生み出すためには、どうしてもルセットやメモを捨て、二度とそれに頼れないように“自分を追い込む”必要があったのだ。
 翻って私たちはどうか?私など追い込まれたとき、ついつい何かにすがりたくなる。誰かが開発したメソッド、どこかの本に書いてあったアイデア発想法……etc。しかしそれらは結局すべて借り物にすぎない。
 「ノウハウなんか捨てちまえ!生きてく上で一番大事な『核』は一つでいい。それを自分なりに極めていくんだよ」井上さんの声がまた聞こえた。

 揺るがない視座
 目新しいものがもてはやされる時代である。常に新しい刺激を求める人々のために、多くの料理人は新機軸という名の流行を仕掛ける。人々はそこに行列をつくり、消費し尽くしては去っていく。
 井上さんはそんな風潮を「伝統を持たない創造には持続力がない」と断じる。伝統の大きな流れに身を置きながら、「自分にしか創れない新しい“何か”を生み出せ」という。そのためには何百回も同じものをつくり、本物に出逢い、驚き、衝撃を受ける中で感性を磨け、と語る。
 伝統をリスペクトし継承しながら、自分だけのオリジナルを作っていくこと。これは料理の世界だけでなく、ものづくりに携わる者すべてが肝に銘じておくべき事だろう。
 「伝統をないがしろにすんな。物事の本質は変わりようがねえんだから。だから俺の目の黒いうちはうちじゃ絶対に醤油なんか使わせねえ……」
 私の脳内で井上シェフがまたしても吼えた。標高の見えない山の裾野をぐるぐる回り続けてきた私も、この極東の島国で足を踏ん張りながら、まだまだ愚直に歩き続けたい。そんな気持ちになれた。


 いつかスーパーマン井上旭の“もう一つの物語”を
 蛇足を承知であえて言わせて頂きたい。本書にはまだ詳らかに語られていない時代の、井上さんの内面の物語をもっと知りたいのだ。例えば、井上さんが日本を出てから『トロワグロ』という星に出逢うまでの疾風怒濤の日々。出口の見えない真っ暗闇の中、心が荒ぶこともあったはずの井上さんは、何を支えに生き、なぜ戦い続けることができたのか。スーパーマン井上旭の心の葛藤を掘り下げるような“もう一つの物語”もぜひ読んでみたいのである。
 「腕のよい料理人は自分の学びとったもの、すなわち自分の個人的な経験のあらゆる結果を、自分の後に続く世代に伝える義務がある」
 トロワグロ兄弟の師ポワンの言葉は、本書によって達成された。だが、まだこれだけで終わって欲しくはない。これからさらに研鑽を積まれ、厳しく若手を育成されていく井上シェフが80歳、90歳になったときに語る言葉———これから世界をめざす若者たちを初めとする多くの人たちを励まし、生きる指針となる金言———を私たちは待っている。

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宮田さんは朝日カルチャーセンターで開いているぼくの「エッセイ講座」の生徒さんでもあります。
ぼくも嬉しいです。日頃の指導の成果かな?食事はぼくと行くのかな?野郎二人でもな~なは。

感想文を書いてくださったみなさん、ありがとうございました。
今回は食事が始まる前から、テーブルのあちこちで「あ、あの文章を書かれたのはあなただったんですか」
「あの文章は素敵ですね~」と、いろいろな会話が花咲いていました。
文章は人柄を表すから、より一層食事も楽しめましたね。
また機会があったらやりたいと思います。

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大江さん、西野さん、包丁だけでなく時にはペンも持って修業してくださいね。ふふ。

お読みいただいたみなさん、ありがとうございました~。

2016 07 29 | 固定リンク

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